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東京地方裁判所 平成3年(ワ)9324号 判決 1992年1月23日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

被告は、原告に対し、一五〇〇万円及び平成三年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実

1  原告と被告は、昭和四〇年九月二〇日婚姻の届出をした夫婦である。

2  本件口頭弁論終結時(平成三年一一月二一日)、当事者間の離婚等請求、同反訴請求事件(一審東京地方裁判所昭和六二年(タ)第四一四号・同年(タ)第五五六号、控訴審東京高等裁判所平成二年(ネ)第一九六九号。以下「別件離婚等訴訟」という。)の控訴審判決に対する上告事件が最高裁判所に係属中であつたが、平成三年一二月一七日原告の上告を棄却する判決の言渡しがあり、右控訴審判決が確定した。

二  争点

1  原告の請求原因

(一) 原、被告間では、原告の給与によつて蓄えた預貯金を昭和六〇年末まで被告が管理していたが、昭和五六年八月一三日の時点で約二九七四万円の預貯金があり、その後昭和六〇年末までの間に更に一七九一万円の預貯金が蓄えられた。

(二) しかし、原告が昭和六〇年末に被告から引き継いだ預貯金の額は約一四五三万円にすぎず、被告は、昭和五六年八月一三日から昭和六〇年末までの間に悪意で約三三一二万円の金員を浪費又は隠匿して利得し、原告に損害を与えた。

(三) よつて、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、その一部である一五〇〇万円の支払を求める。

2  請求原因に対する被告の認否及び主張

(一) 請求原因(一)のうち、昭和五六年八月一三日の時点の預貯金の額は不知、その余の事実は否認する。被告が預貯金を管理していたのは昭和五九年初めまでであり、それも原告との共同管理であつた。

同(二)の事実は否認する。

(二) 本件訴訟は、別件離婚等訴訟の一審及び控訴審判決において既に判断済みの事項を再び審判の対象とするものであつて、実質的に同一紛争の蒸し返しであり、原告の請求は失当である。

第三  判断

一  《証拠略》によれば、別件離婚等訴訟の経過は次のとおりである。なお、この項においては、右訴訟の原告(反訴被告)・被控訴人・被上告人を「花子」、被告(反訴原告)・控訴人・上告人を「太郎」という。

1  花子は、「(一)花子と太郎とを離婚する。(二)花子と太郎の二女夏子の親権者を花子と定める。(三)太郎は、花子に対し、一五〇〇万円を支払え。」との判決を求める訴えを提起し、太郎は、反訴請求として、「(一)太郎と花子とを離婚する。(二)太郎と花子の二女夏子の親権者を太郎と定める。(三)花子は、太郎に対し、二一六八万〇五〇〇円を支払え。」との判決を求めた。

2  太郎は、反訴請求において、離婚原因の一つとして、「花子は、同居中から太郎名義の預金等の無断解約等により計約三一六六万円を横領した」旨を主張し、二女夏子の親権者を太郎と指定することを求める理由として、「以上のような不貞行為や横領等をするような花子は、親権者として不適当である」旨を主張し、また、財産分与として一一六八万〇五〇〇円の支払を求める理由として、「太郎と花子の共同財産としては預貯金等があるが、その元本合計額は四六一九万円、花子の横領による紛失後の残額は合計一四五三万円である」とし、これらについて法定利率による利息を加算して、「太郎に対し財産分与すべき額(五九六七万円の二分の一の二九八三万五〇〇〇円)から残余額一八一五万四五〇〇円を差し引いた金額一一六八万〇五〇〇円が離婚に際し太郎に財産分与すべき金額となる」旨主張した。

3  一審判決は、本訴・反訴の各離婚請求を認容し、二女夏子の親権者を花子と定めた上、財産分与について、太郎主張の横領行為を認めるに足りる証拠はないとして、「太郎から花子に対し五〇〇万円の支払をすることを命じ、他方、花子から太郎への財産分与はこれを命じないこととするのが相当である」とし、太郎の慰藉料請求はこれを棄却した。

4  太郎は、右判決を不当として、控訴審において、「花子は、昭和六〇年一二月以前から管理していた預貯金三一六六万円を太郎に引き継がないまま、不当にこれを横領し、現にその大部分を管理している」旨主張したが、控訴審判決は、その理由第三において、花子と太郎の各財産分与請求について別紙のとおり判示し、財産分与額について一審判決を変更して、太郎が原告に対し一〇〇万円を支払うことを命じ、その余の控訴は理由がないとして棄却した。

二  離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであり、離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方の一切の事情が考慮されるものであるから(最判昭四六・七・二三民集二五巻五号八〇五頁、最判昭和五三・一一・一四民集三二巻八号一五二九頁参照)、離婚等の訴訟において、当事者の一方が、婚姻継続中に形成された預貯金等の財産について、自己の意思にそわない相手方の費消・隠匿行為があつたと主張し、これを横領行為と主張して、相手方の財産分与請求に対する防御事由とするとともに、自己の財産分与請求を理由あらしめる事実として、双方の主張・立証が行われ、かかる主張・立証の結果を含む一切の事情を斟酌して、一方当事者に対し相手方に対する財産分与としての給付が命ぜられたことが認められる場合には、右訴訟とは別に、右預貯金等について相手方がこれを浪費又は隠匿したとして、別途不当利得返還請求の訴えを提起しても、それは、離婚等の訴訟における財産分与の審判の趣旨に抵触するものであり、不当利得返還請求の訴えにおいて、その請求を認容することはできないものと解するのが相当である。

三  前示一認定の別件離婚等訴訟の経過の下においては、原告の本訴請求は、正に右説示の場合に該当するものと認められ、これを認容することはできない。原告は、財産分与の請求と不当利得の返還請求とは法的性質を異にし、本件訴訟は別件離婚等訴訟における紛争の蒸し返しではないと主張するが、実質的に同一の争点に関する紛争の蒸し返しであることが明らかであり、右主張は採用することができない。

四  よつて、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求は理由がない。

(裁判官 石川善則)

別紙

一 《証拠略》によれば、次の各事実が認められ(る。)《証拠判断略》

l 控訴人は、現在、出版社勤務中の給料収入から貯えた預貯金等約一四五三万円を有するほか、他にみるべき資産を有しない。

2 被控訴人は、昭和五六年八月当時、控訴人の収入から貯えた預貯金約二九七四万円を管理しており、それ以降も昭和六〇年三月に勤務先を退職するまで、控訴人には年間一〇〇〇万円前後の収入があつたが、同年末に、控訴人が被控訴人から管理を引き継いだ預貯金額は、数百万円に過ぎなかつた。

3 被控訴人は、昭和四二年ころ長女の出産を機に退職して以降、昭和六〇年に再就職するまでの間、家事、育児に従事しており、独自の収入はなかつた。

4 現在、被控訴人は、生命保険外交員として年間四、五百万円の収入を得ており、これに対し、控訴人は、定職はないが、年額二八〇万円余の厚生年金を受給している。

5 前記認定のとおり、控訴人は昭和六一年秋以降、被控訴人に生活費を渡しておらず、被控訴人は、別居以降は、かなり高額な家賃を負担しながら、大学生だつた長女・春子、中学生から高校生になつた次女・夏子の多額な教育関連費も負担してきた。ただ、被控訴人は、別居以降に、控訴人の預貯金等を解約して、右生活費の一部に当てていた。

二1 なお、控訴人は、右一2の認定の預貯金額の減少分は、被控訴人がこれを横領したものであると主張し、なるほど原審及び当審における被控訴人本人の供述中、自己の管理期間中の預貯金の動き及びその預貯金額が控訴人に引き継いだ時点で少なくなつていた経緯の説明部分には、容易に納得しがたいものがある。

2 しかし、その四年余の間に預貯金から生活関連の支出の必要があつたこと自体を否定しうるものではなく、また、前記被控訴人本人の供述によれば、被控訴人がかなりの浪費をしたことも窺えないわけではないので、その減少分をそのまま被控訴人が横領したものであると推認するには足りないといわざるをえず、まして、被控訴人が現にこれをそのまま所持していると推認することはできない。

3 ところで、《証拠略》によれば、被控訴人は、平成二年二月に、東京都中野区所在のワンルームマンションを代金二五〇〇万円で購入していることが認められるが、《証拠略》によれば、その購入代金はもつぱら借入金で調達されたことが認められるのであつて、この認定を左右するに足りる証拠はないから、右購入事実自体により、被控訴人にある程度の金銭的な余裕があるものと推認する余地はあるとしても、被控訴人が前記預貯金減少分をそのまま所持している事実を推認するには足りないというべきである。

4 ただ、以上の認定によれば、被控訴人は、その額を特定しがたいとはいえ、前記預貯金の減少分の一部を別居以降もその管理下においていたものと推認することはできる。

三 右一、二で認定した事実に基づき、控訴人と被控訴人の離婚に伴う財産分与について判断するに、分与の対象となるべき財産として確定しうるのは、控訴人の預貯金等一四三五万円だけであるところ、その財産形成には、家事、育児を担当することによる被控訴人の相当な協力もあつたのであり、また、昭和六一年秋以降は被控訴人に生活費が渡されなくなり、それ以降は、被控訴人の収入により家賃や教育費を含めた子どもとの生計が維持されてきたとの事情が考慮されるべきであるが、他方、現在、控訴人の財産が前記の金額に止まるのは、被控訴人が浪費したことや金額を特定しがたいとはいえ、別居以降にも被控訴人がその一部を管理下におき、あるいは、一部を払い戻して費消したとの事情も与かつているのであるから、これらの事情を総合勘案し、かつ、現在の両者の収入状態をも斟酌するときは、財産分与としては、控訴人が被控訴人に対し金一〇〇万円を支払うことを命ずるのが相当であり、被控訴人が控訴人に対し金銭を支払うことを命ずるのは相当でないというべきである。

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